テンペスト13
遊戯達をつれて廊下に出て一年の教室の集る棟へと足を向ければアテムが階段へと足を運ぶ。
「おい、教室は・・・」
本田がそっちじゃないぞと正しい方向を指差すも、アテムは俺の目を見てこっちだと言う。
階段を上っていく背中に溜息交じりについていけば
「アテム!」
城之内が止めようとするも
「ボクがついていくからみんなは教室に戻っていて」
背後から遊戯の軽い足音が駆け足で付いて来て、最上階へと向う階段を俺達は黙ったまま階段を上り屋上へ続く扉を開ける。
一時限前だと言うのに陽光に晒された屋上は既にうだるように暑い。
そんな中にある僅かな狭い給水塔の影に潜り込む。
さすがエジプト育ちのアテムはこの陽光をものともせず日差しの中に立つも普段とは違う何処か気の弱そうな視線が僅かに揺らぐ。
「それで君は一体何の用事で三年の教室まで行って何をしていたの!」
怒っているのか何処かアテムに向って睨んでいるようだがアテムも睨まれていると言う意識が無い同様見ていてもとても可愛らしいものだと思う。
何処か楽しんでいる様子すらあるアテムの気持ちもよく判る。
微笑ましく眺めていれば「もう!」と何処か声を荒げた遊戯にアテムは楽しそうな顔で
「相棒が悪いんだ。この間の事教えてくれないから」
ズバリと本題を口にした。
そこでぐっと息を飲み込むも、さっきの勢いはどうしたものか途端にうろたえた視線が俺を見上げる。
どうしたらいいのかと言うようなものだが俺はキッパリと言う。
「俺達付き合う事になった」
「・・・え?」
「ゆ、遊星先輩っ?!」
何処か意味を理解できないと言うようなアテムを余所に遊戯が俺の前で本当に言っちゃっても良いの?!なんて言うような視線で俺を見ていた。
確かに男同士の恋愛は普通の恋愛より色々事情が違ってくるだろう。例えば周囲の視線とか風評被害とか。
だけど
「知りたがったのも聞きたがったのもアテムだ。
遊戯がこの事で困っているようだから本当の事を話したまでだがダメだったか?」
本人が言いたくないような事を他人を使ってまで聞こうとする以上それなりのリスクはあるはずだとただの好奇心で訊ねておいてゴシップに喜ぶような男なら俺は遊戯をアテムから守らなくてはいけない。
「だが、俺一人の考えで教えてしまってすまない」
優しい遊戯の事だからきっと俺のOKを貰ってからアテムに説明しようと思っていたのだろう。
密かに嫉妬していた相手だけに先手を打ったまでだが、遊戯が気に病まなければと思う。
「遊戯は・・・不動遊星の事・・・好きなのか?」
何処か青ざめたように弱々しそうな声をしているも遊戯は気づいてないのか少しだけまだ口になれていない言葉を使うのを恥かしそうに頬をほんのりと染めて
「うん。遊星先輩の事好きなんだ」
照れたように笑みを浮かべながら幸せそうに俺の隣に一歩近付いて並ぶ。
付き合いだしてすぐの遊戯の精一杯の愛情表現は何所までも微笑ましいものだがそれでも十分心を満たしてくれる何かがある。
俺を見上げへへへと笑う遊戯につられるように笑みが浮んでくるもその直後ばたっと何かが倒れる音がした。
「な、どうしたのアテム?!大丈夫!!」
「おいっ!!!」
ひっくり返るように倒れたアテムに駆け寄れば何処か意識が無い。
と言うか目を覚ますように軽く頬を叩いて気づく。
「ひょっとしてこれは・・・」
いきなり倒れたアテムを心配するように涙を浮かべて何度もその名前を呼びかける遊戯の頭を抱き寄せ大丈夫だと言う。
だけど潤んだ瞳を隠さないその額に唇を一つ落として何とか落ち着かせれば
「たぶんだが・・・」
「熱射病だね」
「やっぱりそうですか」
倒れたアテムを保健室に運べば保健医の孔雀先生はアテムをベットに放り込むように指示した後水枕と濡れたタオルを額に乗せアテムの体温を冷やしてくれていた。
「エジプト生まれでも熱射病になるのね~」
何処か楽しげに代わりに保健室の利用記録を書くようにと書類を渡されて必要な所を書き込む。
「向こうの方がもっと熱かったのに」
「体調が悪かったり寝不足とかストレスでも結構あっさりと倒れるわよ」
人間って意外ともろいのよと言う孔雀先生は本鈴の合図にスピーカーに視線を投げて
「ほらほら、健康な生徒は授業に出なさい。様子を知りたかったら次の放課にいらっしゃい。但しうるさい見舞い客はゴメンだよ」
さぁ行きなさいと強引に僕達を押し出してぴしゃりとドアを閉められた。
「ひょっとして僕のせいかな?」
保健室を出て階段に差し掛かったところでポツリと呟く遊戯に俺はその小さな頭に手を載せて
「アテムは遊戯に責任を押し付けて自滅をするような奴か?」
違うだろ?と聞けば不安を隠さない顔で、それでも小さく頷く。
「アテムは本当に遊戯の事を心配していて、たぶん・・・」
たぶんと言って何だと自問自答。
この感情はきっと俺も知っている。
告白する前までに覚えていた感情『失恋』
アテムは今の関係が壊れる事を恐れ、きっとまだ何も伝えてなかったのだろう。
もしくはその準備が整いつつあった、そんな所か。
どっちにしてもだ。
勇気付けるように引き寄せて軽く背中を叩く。
「アテムが意識を取り戻した時に遊戯が泣いてたらきっとアテムはまた後悔する事になる。大切な相棒を泣かせてしまったってな」
きゅっと制服のシャツを握る感覚に何とか遊戯が堪えてくれた事を理解して
「次の休み時間に会いに行こう」
優しく言えばうんと言うように頭が頷く。
その後一年の棟の所まで送れば心配していたのか城之内達が階段の所で待っていて、彼らにアテムが保健室に居る事を伝え遊戯を彼らに任せた。
落ち込んでいる遊戯の背中を見送りながら遊戯を支えてくれる友達がいる事に素直に俺は安心した。
[7回]
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