テンペスト 03
あのデュエルに触発されて久振りにカードを買いにショップに来た。
俺同様に触発されたデュエリストは多くカードを前に考え込んだり、購入したカードを早速デッキに組んで店の一角でその場に居合わせた者同士デュエルを始めた者達で賑っていた。
人込みを避けながらあらかじめ決めていた効果を持つデュエルモンスターの入ったパックを購入すれば何所かで見た顔がそこにあった。
「遊戯・・・」
そう言えばフルネームを聞いてなかったなと思いながら呼べば振り向いた顔は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに俺の事を思い出してか人込みを分けてやってきた。
「先輩もカード買いに来たの?」
見上げる視線にああと頷き買ったばかりのパックを見せる。
「先輩もデュエルするの?」
問われて頷けば
「じゃあ、デッキ持ってる?」
「持ってきてはいるが」
意味が判らないと小首傾げれば突如手を掴まれた。
なんだとその手を見れば
「ここ僕んちなんだ。二階でデュエルしない?」
思わぬ誘いに「ああ」と流されるまま二階へと案内されてしまった。
店の奥から二階に上がり遊戯のシンプルな部屋に案内された。
新しいパックを入れる前に自己紹介代りに一度デュエルをすれば、知り合ったばかりの一年生にあっさりと負けてしまった。
俺ってこんなに弱かったのかと学校内では指折りのデュエリストだったつもりだったが、とんだ井の中の蛙だなとかなり落ち込んだ。
「で、先輩は今日買ったのと入れ替えるんだよね」
どんなデッキになるかな?とまるで自分のデッキのように楽しみに新しいカードを覗き込む遊戯になんだか笑みが沸き起こり、彼の目の前でパックを開けた。
敷き詰められた絨毯の上に並べられたカードには残念な事に欲しいカードはなかった。
強力なモンスターカードはあったものの自分のデッキには合わないなと折角のレアカードだがこのカード一枚の為に自分のデッキを崩壊させるほどの勇気はない。
手元にあった自分のデッキを広げて代わりになるカードがあるかと見比べるも罠カードを一枚入れ替えるだけ。
思ったより収穫のなさに溜息を零せば俺以上に真剣にカードを覗き込んでいる姿があった。
ひょっとしてこれは・・・
「何か目ぼしいカードがあったのか?」
聞けば俺を見上げて小さく頷き、手にしたのは1つ星モンスターのカードだった。
「俺のデッキには合わないから欲しければ貰ってくれ」
と言うも遊戯はふるふると頭を振り
「それは駄目だよ」
と言い出し
「欲しいカードが在ってもデッキに合わないカードが在っても選んだ以上まったく意味の無い事なんてないんだ。だからそんな風に軽く扱うのは良くないよ」
遊戯の持論なのか初めて言われた言葉に何処か感動していれば彼は本棚の下の扉から幾つかの箱を取り出し並べた。
更に俺が今購入したばかりのカードを3枚ほど持ち
「良かったらこれの中から交換してもらえないかな?」
ただ渡すだけがフェアじゃない。
そう言いたいかのような交換条件は何処か優しくて
「じゃあこの中にあったらな」
言えば嬉しそうに俺がカードを選び出すのをひたすら待っていた。
遊戯が所有しているカードの量はハンパ無く多い。
コレクターなのかかなり初期のカードを見る事も出来てそれだけでも勉強になった。
そうこうする間に選んだカードは二桁を超えて総て見終わった時には窓の外は真っ暗に変っていた。
だけど遊戯は嫌な顔一つ見せず
「この中に先輩のデッキを助けてくれるデュエルモンスターが居るんだね」
ずらり並べられたカードときっとさっきのデュエルの組み合わせを考えるかのような視線に緊張する。
「だがこれだけの数を入れ替えると今までのデッキが崩れるし」
「無理して入れても重くなるだけだしね」
その言葉に頷けば
「先輩のメインはシンクロモンスターだから常にフィールドと手札にチューナーを残しておくのが絶対の条件だよね」
どんな状況からでも呼び出せると言う事を第一の条件と言う遊戯に頷けばデッキからでも墓地からでも呼び出せる効果のあるモンスターを選び、万が一除外されても召喚できる効果の持つカードを選んでくれた。
それから暫らくの間遊戯と二人罠カードの吟味や魔法カードの効果を見比べたりとかして久しぶりに充実した時間に最後はお互い年齢差を越えてデュエリスト同士の会話になていた。
それでも遊戯と二人選んだカードは思いのほか多く更なる吟味が必要となった。
だが
「さすがに今日は失礼するよ」
いつまでも居る時間じゃないといえば時計の針が示す時間に何処か寂しそうにそうだねと言う遊戯に笑みを向けながら
「最高のデッキを作って見せるさ」
言えば遊戯は自分の事の様に嬉しそうな笑みを俺に向ける。
「じゃあ、デッキが出来たら一番にボクとデュエルしてよ」
かつての己のカードが俺の手に渡り、運命のデッキとなってその力を存分に見せ知らせる瞬間の第一人者でありたいと言う言葉に「ああ、もちろんだ」と必ず約束するといえば花が咲くような笑みを俺にくれる。
無条件に与えられた純粋なまでな笑みに思わず戸惑ってしまうも遊戯はそれのは気づかず
「ボクのデッキも補強しなくちゃね」
先ほど購入して交換したばかりのカードを眺めながら何処か意地の悪い視線で俺に笑いかける。
「そんなにも強くなってどうするんだ」
溜息混じりに返せば笑みを浮かべたまま遊戯は言う。
「ボクが勝ち続けている限りきっと先輩はボクとデュエルしてくれるからね」
あまりに生意気な挑戦状にほおと返せば
「今度は負けない」
ニヤリと口角を上げてその挑戦状を受け止め
「ボクだって負けないよ」
可愛らしい挑発に一呼吸置いてどちらともなく笑い出した。
「まあ、何回か試して調整してから改めてデュエルをしよう」
「うん。ボクも貰ったカードを組み込んで調節したいからね」
その手に選ばれてからついぞ離す事のなかったカードの幸せな運命に何処か羨ましいと思いながらも長い事座っていたその場を立ち上がる。
「じゃあ、また学校でな」
その別れの言葉に遊戯はわざわざ店の外まで俺を送ってくれて
「先輩とデュエルできるのを楽しみにしてるよ」
なんて可愛い別れにくすぐったく思いながらも軽く手を上げていつまでも見送ってくれているのだろう遊戯に見えないように笑みを浮かべて家路についた。
[8回]
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