星の囁き
「遊星!まだ遊戯帰ってないよね!!」
ガレージの扉を音を立てて開けて飛び込んできた龍亞にブルーノと同様作業を止めてガレージのあちこちを探し出す。
Dホイールの影からゴミ箱の中まで隅々まで探している。
呆気にとられていれば
「遊戯って何処何処何処?!」
アカデミアから帰って来た龍亞が飛びついてきた。
何事かとブルーノと二人目顔を見合わせていればアキと龍可がゆっくりとガレージに現れた。
意味を説明してくれと視線を二人に投げれば
「今日ねアカデミアで昔の、遊戯のいた時代のデュエルの記録を見たの」
「そうしたら龍亞ってばすっかり興奮しちゃって」
羨ましい・・・じゃなくって
「それは興奮しただろう」
サテライトに居た時に何度も繰り返しハッキングしてまで見た映像は目を瞑っても思い出す事が出来る。
何処何処何処とトイレや屋根裏まで探し出した龍亞にくつくつと笑みを零しながら龍亞と呼びかける。
「遊戯さんなら今クロウと一緒に買い物に行ってる」
言えばあからさまに落胆した顔に変わり
「えー?!何で早く言ってくれないの」
今度は文句を言われてしまった。
龍可は予測していたのかほらねと呆れ顔でソファに座れば外に賑やかなDホイールの音・・・ではなく
「ジャーック!!もうついたんだから早く遊戯を下ろせよ!困ってるだろ?!」
「ふんっ!困ってるとは一度も言われた事無い。それよりも早く買出しにしたものを冷蔵庫へ運べ。俺は遊戯をはこ・・・」
「ジャック君ありがとうね!」
なんて、何が起きてるのか聞かないでも判る会話にクロウが両手一杯の荷物を持って入ってきた。
ドアを開けたのは遊戯さんではらはらとした顔で二人の言い合いを眺めていた。
「二人とも、何をそんな大声で喧嘩しているのよ」
疲れたような顔でアキが嗜めればそれに噛み付いたのはクロウ。
机に荷物を降ろし
「だって聞いてくれよ!最初俺と遊戯で買い物に行ったのに、買物先でこいつとうっかり出会って荷物が多いだろうって珍しく人に親切にしてくれるのなって感心したとたんジャックのやつ遊戯を自分のDホイールに乗せるんだぜ」
一気に捲くし立てれば龍可が二人乗りの上に荷物はちょっと多いかもと呟けば
「俺のDホイールに荷物なんて物の置く場所などない」
「だからって遊戯を前に乗せるなんて何かあったらどうするんだよ!」
「無事に帰って来たじゃないか」
騒ぐクロウの言葉をさらっと聞き流しているも、さすがにジャックのDホイールで二人乗りは目立っただろうと、ブルーノと二人でキッチンに消えた遊戯さんに少しだけ同情してしまう。
そしてお約束のように
「デュエルだ!」
二人の声が重なった瞬間
「あーっ!!!」
叫んだのは龍亞。
何事だとジャックとクロウも見守る中龍亞はキッチンから出てきた所の遊戯さんに飛びつき
「俺とデュエルして!!!」
キラキラと星を散らしたような瞳が遊戯さんを見上げ、遊戯さんは少し驚いた顔をするもそれ以上に
「抜け駆けは許さん!」
「そうだ!まだ俺達だって相手をしてもらってないのだからな!」
クロウとジャック二人がかりで剥された龍亞は首根っこ掴まれて猫のように吊るされていた。
「つまり二人とも遊戯さんとデュエルしたいのね」
確かにしてみたいけどと本音を隠さず認めるアキの方が大人にも見えるのだからおかしな話だ。
三人で俺が先だとわめき立てるのを見て遊戯さんは困ったと言うよりも驚きながら
「もう一人の僕が順番にやろうかって・・・」
言えば遊戯さんが名もなき王に代わる合い間に今度は俺が先だと喧嘩が始まった。
「あーあ」
男の子って困ったものねなんて龍可の呟きには素直に賛成は出来ないものの遊戯さんがデッキを取り出し
「カードを引いて攻撃力の高い順番から・・・」
宥めるように言えば三人は気迫迫る視線をぶつけたかと思った瞬間デッキを取り出し
「ヤッター!俺一番!!」
魔法カードを引いたジャックと罠カードを引いたクロウの二人は問題外だった。
何でこんな時にと悔しがる二人をよそ目にいそいそと外へと行こうとするも天は常に味方であるわけでは無い。
さっきまで天気が良かったはずの空はいつの間にか厚い雲に覆われぽつぽつと雨が降り出してきた。
誰ともなくいつの間にか雨空へと変わった空を見上げていれば
「じゃあテーブルでやろうか」
零れ落ちた雨空のように涙ぐみだした龍亞に笑みを向ければそれに答えるような満面の笑みで頷き机を挟んで向かい合うようにデュエルが始まった。
サテライトでは当り前のように地面にカードを並べて誰もが集めたカードでデュエルをしていた光景を思い出す。
ディスクがなくてもカードに対する思いさえあればそこが何処であってもデュエルが出来る。
少し懐かしい思いを織り交ぜながら嬉しそうに楽しそうに始まる合図と次の順番を争うクロウとジャックの声を聞きながらブルーノと二人Dホイールの調整を再開した。
結局龍亞とジャック、クロウそしてアキと龍可、ブルーノもちゃっかり相手してもらって伝説のデュエリスト負ける事無く勝利を手中に収めていた。
すっかり暗くなって龍亞と龍可、アキも急ぎ足で帰れば遊戯さんが作る夕食を食べる。
見事なまでに負けを喫したジャックとクロウは悔しそうに部屋に戻って行った。
それから俺とブルーノはDホイールのセッティングに取り掛かり、後片付けを終えた遊戯さんは屋根裏を片付けて整えられた部屋に戻って行った。
あまり仕事がはかどらない中、ブルーノは先に休むと部屋へと下がって行き、俺も煮詰まりながら終わらない作業を放棄するかのようにガレージの証明を落とした。
しんと静まり返ったガレージの中をブーツの踵を響かせながら自室に戻る。
明かりもつけずベットに倒れこむように横になって目を閉じる。
作業の横で伝説のデュエリストとデュエルするジャックたちの姿が目に浮んだ。
断る事もなく順番に公平に龍亞のもう一度と言うコールのも嫌な顔一つ見せずに相手をする姿に・・・嫉妬していた。
俺も混ぜてくれ。
その一言だけなのに何故か口に出しがたく、仕事が先だと自分に言い聞かせながら結局機会を逃してしまい酷く後悔している自分が居た。
チャンスを無駄にするなんて俺らしくもないと失笑していればコンコンと小さなノックの音。
こんな時間に誰だと思うよりジャックとクロウがノックをするわけないと足音が響かないのを考えてまさかと室内の灯りをつけてドアを開けた。
頭ひとつ分とまでは言わないが扉のそこには予想した人物が立っていた。
手にはデッキを持ち、更に足元を見れば裸足で、
「遊戯さん・・・」
冷たくないですかと言う前に
「ちょっと良いかな?」
にっこりと笑みを絶やさない遊戯さんを部屋に招きいれてベットに座らせた。
にこにこと微笑む遊戯さんを正面にどうしたのですかと切り出すのも変だなと迷っていればその人の良い笑みのまま
「今から僕とデュエルしない?」
デッキを手にしているのだ。想像はすぐにはついたがそのためにこんな時間にわざわざ来たのかと考えながら「はあ」と生半可な返事を返す。
「もう一人の僕も酷いよね。折角こんな強い相手を独り占めしてさ」
なんて、ぷうと膨らむまだ柔らかそうな頬を膨らます顔は何処か拗ねた顔。
「だから今から僕と遊星君でデュエルをしよう」
何でそこでだからとくるのかと思えば
「そうすれば今日みんな一回はデュエルした事になるしね」
子供のような言分けの様な弁解に呆気にとられるもその主張はとても公平だ。
「遊星君だって本当はもう一人の僕の方がいいと思うんだけど・・・」
「いえ、遊戯さんとデュエルして貰えるなんて光栄です」
いてケースからデッキを取り出してシャッフルする。
俺が準備をしている合間に遊戯さんは準備を終えていて
「じゃあ僕が先に準備出来たから僕の先攻!」
ドローと言う夜に相応しく囁くような掛け声にちょっとずるいと思いながらも、密やかに始まったデュエルに妙な緊張感と高揚感を覚えた。
結局この日は遊戯さんの二人勝ちと言うスコアにジャックやクロウでなくても軽く落ち込んでしまうのはしかたがないだろう。
[11回]
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